最初は ほんとうに小さな音だった
誰も 気づかなかった
朝の鐘の陰で 石がひとつ 落ちただけ
空は青く 鳥は歌っていた
人々は 日々の光を信じていた
それが 最後の平和とも知らずに
城の隅に走った 小さな亀裂
まるで 疲れた者の ため息のように
だれもそれを 「終わり」と呼ばなかった
けれど その夜 夢に現れた
名も知らぬ子が 涙を流していた
「わすれて」と言って 背を向けた
そして 風が変わった
同じ場所なのに 冷たくて遠くて
あたたかい声が 一つ、また一つ、静かに消えていった
翌朝 城の旗が揺れなかった
太陽は昇ったのに 光が届かなかった
誰もが黙った そして、目をそらした
それが きっかけだった
崩れるには 戦争も 災いも いらなかった
ただ、少しだけ
信じる力が 足りなかっただけ
きっかけ

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